劣等感を乗り越え指導者としての人生へ
一般財団法人日本プロスピーカー協会 認定シニアプロスピーカー
縁ある人を物心両面の幸福に導ける技術を体得している真の指導者「プロスピーカー」として生きる人物に焦点をあてた本コーナー。今回は歯科医院の副院長として、全国の歯科医院の指導者育成にも力を入れている渕澤さんです。自分に自信も価値もないと思い、2年間引きこもりだった状態から、いかにして貢献の人生を歩むようになったのか、お話しいただきました。
私の父は開業医、母は看護師。幼い頃から、「医者になる」というのが私の人生だと思っていました。それは父の期待に応えるためでした。しかし、医学部には入れず、入学したのは歯学部。「医者が駄目なら教授になって欲しい」と言う父の期待にも応えられず、大学院では2年間引きこもりに。父の期待を裏切り続ける自分に価値はない。自分を責め、現実から逃げるように無気力な生活を送っていました。
そんなとき転機が訪れます。妻の妊娠です。一家の主人としてしっかりしなければと、働き口を探すなかで出会ったのが、大学の先輩でもある八戸総合歯科の吉田洋一院長でした。実績もない私を快く受け入れてくれました。院長の勧めもあり『頂点への道』を初受講したのが2013年のことでした。
初受講は、自分と向き合う三日間となりました。特に響いたのは、アチーブメントピラミッドという概念。誰のために、何のために、なぜ私は生きているのかという「人生の目的」を考える機会になりました。はじめは全く思い浮かびませんでしたが、「人はいつからでもどこからでも、よくなれる」という青木社長の言葉に勇気を貰い、こんな自分でもよくなりたい、成功したいという自分の気持ちに気がついたのです。さらに考えていくと、その原点には院長の存在がありました。あるとき、私は患者様の治療でミスをして大きなクレームをいただき、意気消沈して帰ろうとしました。すると、院長が私を呼び止め真っ直ぐ目を見てこう言ったのです。「大丈夫だ。必ずよくなる。だって、カズには価値があるんだから」。その本気の言葉に涙が溢れました。今までの人生でここまで真剣に言ってくれる人はいなく、本当に嬉しかったです。院長に恩返ししたい、それが私の人生の目的だと確信したのです。
院長が大切にする「患者さんの人生の質の向上」という理念の具現化を考えると、鍵になるのは歯科医師としての技術だと思い、院長の患者様への施術の仕方、説明の仕方、一挙手一投足をメモして、技術を完全コピーしていきました。すると、だんだん院長の価値観を理解できるようになっていきました。もちろん、とんとん拍子ではありませんが、学び続け何回も現場で実践することで、技術も人間力も磨くことができました。おかげさまで、地域で一番の歯科医院400医院が集まるセミナーで、院長の思いを体現するナンバーワンのスタッフとして評価され、「日本一の勤務医」の称号を獲得。院長も泣いて喜んでくれ、誇らしい気持ちになりました。
実績を出し、自己概念は高まったものの、結果を出し続けなければならないという焦り、心の底から自分の価値や可能性を信じ切れない不足感を抱えていました。そんなとき、院長から勧められたのがプロスピーカートレーニングプログラムの受講でした。
6か月かけて行われる研修では、先輩プロスピーカーの方々に関わっていただきながら、自分という人間を深掘り、30分プレゼンを作り上げていきます。いまでも鮮明に思い出すのは、最終日の一次試験前日。プレゼンを見てくださった先輩プロスピーカーから「本当に伝えたいことはそれでいいの?」とフィードバックをいただき、改めて熟考しました。浮かび上がってきたものは、父への想いでした。歯科医師としての技術を懸命に磨いてきましたが、思えば幼少期から職業人として一流を追求し続ける父の背中にたくさん刺激をもらってきました。「父みたいな人間になりたい」そんな思いが私を支えてきたのだと気がついたのです。翌朝、父に電話をしました。「父さんは、俺が歯医者になってどう思った? 医者になってほしかった?」という問いに、間髪入れずにこう答えたのです。「何言ってんだ。嬉しいに決まってるじゃないか。自分で決めた道を貫いていきなさい。歯医者として頑張っている息子を誇りに思うよ」。この言葉を聞いた瞬間、「自分は愛されていた」という温かい気持ちが湧き上がってきました。期待を裏切り続けてきたというのは解釈であり、私は父に愛されていた。自分に対する捉え方が180度変わりました。私には価値がある。父のようなプロとなり、縁ある人々を幸せに導き、貢献の人生を生きる。本当の意味で人生の目的が明確になりました。ベーシックプロスピーカー試験に合格して、人生の目的から一貫した人生を送ると心が決まり、不安や恐れが消えていったのです。
プロスピーカーに合格以降、歯科医師を集めた勉強会の開催、歯学部生に向けた授業への登壇など、JPSA活動をとおして成長と貢献の両軸を効果的に伸ばせていると感じています。新たなことに挑戦することで、自分にはこんな可能性が秘められていたんだと、どんどん思考が拡張しています。2024年4月にはシニアプロスピーカー試験に合格。歯科業界だけでなく、組織人、日本を豊かにするというビジョンを描けるようになりました。
自分に自信もなく、引きこもり生活を送っていた私がここまで成長することができたのは、学び続け、大切な人から受け取ってきたものに気づけたからです。誰しもが愛され育ってきた存在です。いただいてきた愛情に気づき受け取れたとき、人は自分の可能性を信じられるようになる。そして目的を追求する力が湧いてくる。この道を歩んでいくのがまさにプロスピーカーチャレンジなのです。自分を信じ仲間を信じ、これからも歩み続けてまいります。